
肩の痛み Shoulder Pain
肩の痛みの原因は一般的に肩関節の病気(四十肩/五十肩、腱板損傷/断裂、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症、上腕二頭筋長頭腱炎、インピンジメント症候群など)が疑われますが、筋骨格系の病気(肩凝り、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群)、循環器系の病気(高血圧、狭心症、心筋梗塞)、婦人科系の病気(更年期障害)なども考えられます。
始めにそれらの病気について簡単に説明します。
四十/五十肩(肩関節周囲炎) Frozen Shoulder /Adhesive Capsulitis
四十肩/五十肩の正式名称は肩関節周囲炎で、中年(40~60代)で起こり易く肩関節を取り囲む組織(関節包)に何らかの原因で炎症が起きて激しい痛みと運動制限を生じ、「肩が痛くて夜も寝られない」、「腕が挙がらなくて服が着れない」、「手が後ろに回せない」など日常生活に大きな支障が出る疾患です。 はっきりとした原因は不明ですが、加齢や不良姿勢(長時間背中を丸めた姿勢でのパソコン作業など)、運動不足などによる肩関節への持続的な負担が考えられます。 肩関節周囲炎は通常、1)安静時や夜間に肩に痛みを生じる時期(急性期)、2)痛みが和らいだ後に関節が硬直する時期(拘縮期)、そして3)痛みやこわばりが徐々に回復する時期(回復期)の3段階を経て徐々に回復していきます。 治療期間が一年以上に及ぶ場合もあります。
腱板損傷/断裂
人間の肩関節は体の中で最も可動域が広い関節で、多方面に動かすことができる一方、大きな力が加わると外れやすい構造になっています。その肩関節の上腕骨と肩甲骨とを密着させ、固定している筋肉群が棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋の四つの筋肉です。これら四つの筋肉群が上腕骨と付着する部位を腱板と呼びます。腱板損傷とは、加齢による腱板の劣化、転倒/急なひねり動作等による外傷、スポーツ時の反復動作によるオーバーユース(使い過ぎ)等が原因で腱板(棘上筋や棘下筋の腱に多い)の一部に損傷が起こる疾患で、腱板断裂とは腱板が(ほぼ)完全に断裂した状態をいいます。腱板の損傷は特に40代以降の男性(ピークは60~70代)の右肩(利き手側)に起こりやすい傾向があります。 腕を動かす際の痛みや挙上時の異音(ジョリジョリという音)、睡眠時の痛みを発症します。肩関節周囲炎との違いは、腱板損傷では痛みがあっても腕を挙げる事が出来ますが、肩関節周囲炎では全く挙がらなくなります(凍結肩と言われる所以)。
石灰沈着性腱板炎
肩の腱板に石灰(リン酸カルシウム)が沈着して急性の炎症が生じ、夜間に酷い痛みで睡眠が妨げられたり、腕の運動制限が起こります。特に40~50代の女性に多い疾患です。
変形性肩関節症
腱板損傷や上腕骨頭壊死、関節リウマチや上腕骨骨折などの病気が誘因となって肩関節(上腕骨と肩甲骨の間)の表面を覆う軟骨が変性、破壊され、肩の痛み、運動障害、関節の腫れを発症します。
上腕二頭筋長頭腱炎
スポーツ(野球・テニス・水泳など)や仕事での反復動作、加齢によって上腕二頭筋が上腕骨を通る溝(結節間溝)で炎症が起き、肩前面の痛み、運動制限(特に手を挙げる動作)、運動時のクリック音などを発症します。
インピンジメント症候群
肩には、肩甲骨の先端(肩峰)と、その下を通る腱板の間で摩擦を和らげる滑液包(肩峰下滑液包)と呼ばれる組織があります。スポーツ(野球・テニス・水泳など)や仕事での反復動作、加齢等によって、この滑液包に炎症が起きて負荷が掛かる度に肩に痛みが生じます。
緊張性頭痛
頭痛の中で最も多くみられるのが緊張性頭痛で、パソコン作業やデスクワーク等でうつむき姿勢を長時間続けることで背骨や筋肉(側頭筋・後頚筋・僧帽筋など)に負担が掛かり、血流の低下や神経障害を招いて後頭部を中心に締め付けられるような頭痛を発症します。 午後や夕方の一日の終わりにかけて発症しやすく、重い肩凝りや眼精疲労を伴う場合があります。
肩凝り
不良姿勢、長時間のパソコン作業やスマホ操作、なで肩、肩掛けカバン等による首/肩の筋肉への過剰な負担、運動不足、精神的なストレス、冷房や冬場の冷えによる血行悪化などが原因で首から肩にかけて重だるくなって、時には痛みを発症します。
頚椎症
50歳以上の男性に多く、加齢による背骨の変形や椎間板の変性が神経を圧迫して首や肩の痛み、手のシビレや力がいれずらい(筋力低下)などを発症します。
頚椎椎間板ヘルニア
30~50代に多く、不良姿勢やスポーツ、重労働などで背骨に繰り返し負荷が掛かって背骨の間の軟骨(椎間板)が変形、突出し脊髄や神経を圧迫する疾患です。首や肩の痛み、手のシビレや力が入れずらい(筋力低下)等を発症します。
胸郭出口症候群
人間の鎖骨と肋骨の間にはスペースがあり(胸郭出口)、頚椎から上肢へ伸びる神経や血管が通っています。不良姿勢やなで肩、力仕事に従事したり肩にカバンのを背負う習慣のある方、筋肉が発達したアスリート等、この胸郭出口が狭くなると、神経や血管が圧迫されてつり革につかまったり、髪を洗ったり、洗濯物を干したり、腕を挙げる動作で首、肩、腕、手がしびれたり、だるくなったり、筋力低下(力がいれずらい)等を発症します。
高血圧
高血圧は生活習慣(塩分摂取過多、肥満、運動不足、ストレス)や加齢、遺伝的な要因で血管が収縮し血圧が135/85mmHg以上になった状態のことを言います。血流が悪くなることで冷えや肩凝り、頭痛を発症したり、それが放置されると動脈硬化や脳梗塞/脳出血、心筋梗塞等の重篤な疾患のリスクが高まります。
虚血性心疾患(狭心症/心筋梗塞)
虚血性心疾患とは心臓に必要な酸素や栄養を運ぶ血管が狭くなったり詰まることで心臓に障害が起こる病気の総称で狭心症と心筋梗塞を指します。 狭心症は心臓の表面の冠動脈(心臓自体に血液を供給する血管)が狭くなることで階段を上がったり、重い物を持ったり、少し速足で歩いたりした際に胸やみぞおち、背中の痛みや圧迫感、胸やけ等を発症します。心臓の感覚を伝える神経は腕や肩の感覚を伝える神経と同じ経路で走行している為、上半身(特に左側)の肩こりや腕、顎や歯の痛みを発症する場合もあります(関連痛)。症状は大抵15分以内には解消しますが20分以上続く場合は心筋梗塞の疑いが強くなります。心筋梗塞は狭心症が悪化し、細くなった血管に血栓が詰まって心臓の細胞が壊死してしまう病気で、心不全や不整脈、突然死を引き起こす恐れがあります。虚血性心疾患は高血圧や糖尿病、脂質異常症などの持病や睡眠不足や運動不足、喫煙歴のある方のリスクが高い疾患です。
更年期障害
更年期(40歳後半から50歳前半)の女性が閉経によって卵巣の働きが低下して卵巣ホルモン(エストロゲン)の分泌が少なくなると、その分泌を促す卵胞刺激ホルモンが脳(下垂体)から過剰に分泌され、自律神経が乱れやすくなります。その結果、交感神経が優位になり、ほてり、のぼせ、発汗、動悸、肩凝り、高血圧や精神不安定など症状や骨粗しょう症が進行したり、血中コレステロールも上昇します。
肩の痛みの一般的な治療は・・・
治療は原因によって異なります。
肩関節周囲炎では、痛みが強い急性期は三角巾やアームスリング等で固定しながらの安静、消炎鎮痛薬、注射療法が行われ、痛みが軽減したら拘縮予防の為の温熱療法や運動療法を行います。近年では麻酔下でのマニピュレーション(手技療法)も選択肢になりつつあります。
腱板損傷・断裂では、三角巾やアームスリング等で固定しながらの安静、注射療法、運動療法などの保存療法が行われますが、改善が見られない時は手術(関節鏡視下手術)が検討されます。
石灰沈着性腱板炎では、針を腱板に刺して行う石灰吸引治療や三角巾等で固定しながらの安静、消炎鎮痛薬、注射療法が行われます。痛みが軽減したら拘縮予防の為の温熱療法や運動療法が行われます。
変形性肩関節症では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、消炎鎮痛薬、ヒアルロン酸注射等の保存療法が行われますが、改善が見られない場合は手術(人工関節置換術)が検討されます。
上腕二頭筋長頭腱炎では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、物理療法、リハビリ等の保存療法が行われますが、改善が見られない場合は手術が検討されます。
インピンジメント症候群では関節包の炎症を抑えるために安静、ストレッチ、運動療法、ステロイド注射が行われますが、改善が見られない時は手術(関節鏡視下手術)が検討されます。
緊張性頭痛や肩凝り、頚椎症ではマッサージや温熱療法、消炎鎮痛剤の入った湿布や鎮痛薬、筋弛緩剤が使用されます。
頚椎椎間板ヘルニアでは、消炎鎮痛剤の入った湿布や鎮痛薬、筋弛緩剤やステロイド等の飲み薬、けん引、マッサージや温熱療法、痛み止め注射、ブロック注射などが使用されますが、もし、それらの治療で効果が無ければ、手術が考慮されます。
胸郭出口症候群では、姿勢の改善やリュックや重量物の持ち運びの回避、肩周辺のストレッチや筋トレ、消炎鎮痛薬、筋弛緩薬などの保存療法が行われますが、改善が見られない場合は手術も検討されます。
血圧のコントロールには生活習慣の改善(禁煙、運動、睡眠、食事)や降圧剤、血流障害には抗血小板薬や抗凝固薬、更年期の女性にはホルモン補充療法や漢方薬が用いられます。
カイロプラクティックでは・・・
カイロプラクティックでは、肩関節の可動性に大きな影響を及ぼす背骨と背骨を通る神経に着目します。
肩関節は首や背中、胸や肩、腕にわたる約20もの筋肉が動かしていますが、それらの筋肉は全て背骨から伸びる神経が制御しています。
不良姿勢や長時間のパソコン作業、スポーツの反復練習などで背骨に歪みが生じると、背骨を通る神経にも神経障害が起こり、脳からの指令が各筋肉に正しく伝達されなくなります。その結果、肩関節に負担が掛かったり、正常に機能できなくなって可動制限や痛みなどの症状を発症します。
カイロプラクティックでは背骨の歪みを整える事で、背骨を通る神経障害を取り除き、肩関節障害の根本的な解決を図ります。